1. 「成年後見」という言葉をお聞きになったことはあるでしょうか。加齢、事故、病気、その他の理由により判断能力が衰え、あるいは判断能力が無くなってしまうと、自らの判断で財産を管理し、法律行為を行うことができなくなります。

そのような場合に、判断能力が衰えた方(「成年被後見人」といいます)に代わって、その方の財産管理や法律行為を行う人を「成年後見人」といいます。

例えば、次のような場合に、成年後見人が必要となることが考えられます。

①父が亡くなり遺産相続が発生したため遺産分割協議を行いたいが、相続人である母の判断能力が不十分であるため遺産分割協議を進めることができない。

②父が老人ホームに入居する費用を捻出するため、父の所有する不動産を売却したいが、父の判断能力が不十分であるため売却できない。

③交通事故の被害にあったため加害者に損害賠償を請求したいが、被害者自身の判断能力が不十分であるため損害賠償を請求できない。

④判断能力が不十分である両親の財産管理を子どもの1人が行っているが、適切に管理しているか疑問であるため、第三者に財産管理を行ってもらいたい。

 

2. 成年後見制度には、大別すると「法定後見」と「任意後見」とがあります。

法定後見とは、ある方の判断能力が衰えた後、その親族等が家庭裁判所に法定後見人の選任を申し立て、家庭裁判所が後見人を選任する制度です。申立にあたって、申立人は成年後見人の候補者を家庭裁判所に申請することができますが、誰を成年後見人に選任するかは家庭裁判所が決定するため、申請した候補者が選任されないこともあります。親族間で対立が無い場合には親族が選任されることもありますが、親族間の対立がある場合や成年被後見人に多額の資産があるような場合には弁護士や司法書士等が選任されることも珍しくありません。

これに対し、任意後見とは、本人が正常な判断能力を有しているとき(判断能力が衰える前)に、将来自分の判断能力が衰えた際に成年後見人に就任してほしい方(任意後見人候補者)との間で、将来の自身の生活、療養看護及び財産管理に関する事務について代理権を与える旨の契約(「任意後見契約」といいます)を締結し、将来実際に判断能力が衰えた際に任意後見人候補者に自身の任意後見人に就任してもらう、という制度です。自身が選んだ方に後見人に就任してもらえる点が法定後見人との大きな違いです。もっとも、任意後見契約の締結にあたっては、公証人の作成する公正証書によらなければなりません。

なお、法定後見人、任意後見人のいずれであっても、後見人に就任した者は、成年被後見人のためにその財産の管理を行い、後見事務を取り扱う義務を負うことに変わりはありません。具体的には、成年後見人に就任後、速やかに成年被後見人の財産を調査し財産目録を作成しなければなりません。また、成年後見人の財産と成年被後見人の財産は明確に区別して管理する必要がありますし、必要に応じて成年被後見人の財産状況を家庭裁判所(ないし家庭裁判所が選任する後見監督人)に報告しなければなりません。

 

3. 弁護士は、法定後見人の選任申立をするにあたって、申立人の代理人として申立てを行うことが出来ますし任意後見においては、任意後見契約書作成のお手伝いをすることが出来ます。また、弁護士が後見人候補者となることもあります。日本人の平均余命が延び、高齢化が進む昨今において、いつ成年後見制度の利用が必要となってもおかしくありません。

お困りのことがありましたらご相談ください。

 

【弁護士 奥 祐 介】

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