労働事件についてよくあるご質問を、質疑応答形式で掲載しています。ご参考になさってください。
労働事件
労働条件は、基本的に会社と労働者の個別の合意により成立します。たとえば求人広告に一定の給料額が掲載されていたとしても、それだけでは未だ個別の合意にはなっていないので、その掲載された給料額を当然に請求できません。
ただし、会社には、労働者が労働契約の内容を理解できるよう促す義務がありますので、実際求人広告以下の労働条件なのに、求人広告通りの労働条件であると信じさせるような広告や面接を行った場合には、慰謝料が認められる可能性があります。 なお、ハローワークが出す求人票は、単なる広告と比べて信用性が高いので、特別これと異なる合意をしない限り、求人票の内容が個別の労働条件となると考えられます。
内定は会社が一方的に取り消すことが可能ですが、条件があります。内定通知書にその取り消しの条件が記載されていることが多いですが、一般的には、内定を出した時点では分からなかった事情がその後判明し、その事情を理由に内定を取り消しても仕方ないといえるような場合に内定を取り消すことができます。 厚生労働省が示す具体的としては、大学卒業見込みで内定を受けた者がその後大学を卒業できなかった場合や、内定者が一定の犯罪行為を行った場合、健康診断で業務に耐えられない重大な異常が発見された場合などです。
また、赤字経営などを理由に整理解雇(リストラ)の対象として内定者が選択される場合がありますが、内定時から採用時までに急激に赤字となって人員削減の必要性が生じるとは考えにくいので、基本的にその場合には内定取り消しは許されないでしょう。
試用期間は、労働者の業務に対する適性をみるためのものなので、試用期間の中で初めて知り得た事情で、その事情から引き続き採用を継続することが適当でないと判断できる場合には、試用期間の解雇や本採用拒否が認められることになります。
たとえば、経歴や学歴の詐称は会社の業務と大きな関連性があればその事情となり得ますし、業務成績不良は、会社がある程度の教育をしても成果が上がらない場合などの事情があれば、解雇・本採用拒否の理由となり得ると考えられます。
基本的には労働者の同意なく会社の一方的判断だけで給料を下げることはできません。 降格などに伴って給料を下げられる場合がありますが、これが有効となるためには、どういう場合に降格がなされるか就業規則に合理的な規程があり、その規程が労働者に知らされていなければならないと考えられます。 当然、就業規則に該当しても、会社が不平等に恣意的に使うことも許されません。業務対する査定により賃金を減額する場合も同様です。
会社には、労働者の就業環境に配慮する義務があります。ですから、会社には社内でセクハラが発生していれば、それを是正し、防止する義務があります。 会社にセクハラ相談を専門に扱う部署があれば相談して対処を求めるべきですが、そのような相談部署がなく、またそのような相談部署でも対応できない場合には、弁護士等の第三者を通じて会社に対応を求めるべきでしょう。
第三者が会社に伝えることで話が大きくなることを懸念される方は少なくないですが、男女雇用機会均等法が制定され、セクハラに対する会社の対応は以前にも増して大きくなっています。まずは弁護士などに相談して、どのような対応ができるか具体的に話し合うべきです。その際には、できる限り、セクハラの証拠を録音、メールデータなどでしっかりと残しておきます。
会社はQ5のとおり、労働者の就業環境を配慮する義務を負いますので、その点から会社は社内で発生するパワハラやいじめに対応する義務を負います。
ところでパワハラは一般的には上司から部下に対して、指導の枠を超えて個人を攻撃するような不当な言動を行うことを指します。他方、職場におけるいじめは、パワハラと似ていますが、仕事はずしや、不必要な業務をさせるなど多様です。 パワハラやいじめにあたるかどうかは第三者の視点で判断されます。どういう場合がパワハラやいじめに該当するか具体例を挙げることは難しいですが、不当な目的・動機に基づく場合や必要性に乏しいもの、我慢できる範囲を大きく超えるものなどが一般的な基準となります。具体的な言動がパワハラに該当するかは個別に検討するしかありません。 ここでも個別の言動と証拠を残しておくべきです。
日本では、解雇が厳しく制限されている代わりに、会社に人員の適正な配置のため、業務上の必要性があれば、配転を広く認めようとする傾向があると言われます。
実際、裁判例でも配転は広く認められ、不当な動機・目的であったり、必要性に乏しかったり、我慢できる範囲を大きく超えるものでなければ基本的に配転命令を拒否することはできないと考えられます。 我慢できる範囲を大きく超えるかという点は事案ごとの判断になりますが、自分や家族に常時介護ないし付添が必要な労働者が、特別その労働者が配転されるべき必要性もないのに遠方へ配転させられた場合などで配転が許されない事例が出てきています。 また、会社と労働者との個別の雇用契約において就業地や職種が限定されているのに、それを超えて配転命令することはできません。
期限を定め、その期間にうつ病から快復し、働ける状況にならなければ解雇になると就業規則で定める例はよく見受けられます。
ここでのポイントは、「本当に働けないのか」という事です。主治医の意見と産業医の意見が異なる場合などは判断が難しいですが、会社側は産業医の意見を重視して判断することが多いので、主治医だけではなく産業医と十分に話合い、本当に自分が働けない状態かどうかよく確認してもらう必要があります。 なお、うつ病で労災が認められている場合には、会社は解雇できません。
一般的に、どういう場合に解雇されるかは就業規則に定めがあり、どのような事情がどの条項に該当するのか会社は明らかにする必要があります。 解雇理由証明書を会社に請求すると、それが分かります。そしてその示された理由が労働者を社外追放するほど重大な問題といえるか、それが第三者からみても明らかかどうかがポイントです。
また解雇までの手順も重要です。解雇するほど重大な問題とは、解雇でなければ対処できないほどの問題であるかということでもあります。解雇の前に他の処分では対応できないのか、そのような視点での検討も重要です。 このような検討で解雇が無効だといえるならば、労働者は会社に対して、解雇が無効なので、まだ従業員であることの確認と、解雇されなければもらえるはずだった給料を会社に請求します。会社が応じなければ裁判所に訴えることができます。現在は労働審判制度があり、解決までの期間は以前に比べて短縮されました。
リストラという言葉をよく耳にしますが、そう簡単にできるものではありません。
裁判では、人員削減するほど経営状況の悪化すなわち赤字が継続し、解雇をしないように頑張ったが無理で、解雇するべき人を合理的に選択していれば、有効と認めることになります。 会社としては、赤字経営が続いているなど経営の厳しい状況が続いていることや、できる努力をしてきたこと、リストラ対象者の選定根拠などを事前に労働者にしっかりと説明し、労働者と協議する必要があると考えられます。
雇い止めの問題です。基本的に期間を区切っていますから、更新しないと言われれば、それで話が終わってしまいそうですが、裁判例では、更新が何度も繰り返されて、当然更新されるような状況になっていたり、そう労働者側で期待するような事情があれば、会社は更新を断れない場合が出てきます。
どういう場合に「当然更新」といえるか、「労働者側で期待する」といえるかは、更新の回数や雇用期間、更新についての会社の言動、仕事が臨時かどうかなどで判断されます。個別的な検討が必要なので、同じ更新回数・雇用期間であっても状況は異なってきます。 なお、法律が改正され、平成25年4月1日以降に新たに始まった期間を定めた雇用は、更新により5年を超えれば、労働者側が希望することで期間の定めのない雇用に変更できることになりました。
1日8時間、週40時間を超える労働、午後10時から午前5時までの労働、会社が休日と定める日の休日労働については残業代が発生し、時給換算で割増給料が発生します。
残業の種類によって割増率は25%から60%と幅広く、具体的な残業代の算定には計算が必要です。出退勤時間がわかるタイムカードなどの資料さえあれば、すぐに計算できます。 自分が残業代を支払われているかどうかは給料明細票の「時間外労働」「深夜労働」「休日労働」の欄をみれば分かりますが、会社によっては基本給に含まれているという場合や固定残業代制度になっていたりします。 このような基本給に含まれる場合や固定残業代制度は実際の残業代を反映していない限り、無効となってしまう場合がありますので、基本給に含まれているとか固定残業代制度だからといって、それだけで残業代が支払われなくてよいことにはなりません。ここは個別に検討が必要です。
労働基準監督署に労災申請を出し、認められれば、治療費や休業期間の賃金などの労災給付を受けることができます。
これは勤務中のケガに会社の落ち度がなくても認められます。現在は、単純なケガだけでなく、うつ病など精神疾患についても、それが業務の中で発生したと言えれば、労災が認められる可能性があります。 もっとも、労災は労働者に発生した損害をすべて補償してはくれません。会社に落ち度があってケガをした場合には、別途会社に損害賠償請求をする必要があります、 近年、労災についての理解が広がり、申請件数・認定件数は増えています。認定を受けるまでに時間がかかりますが、事故時に遡って給付を受けられます。
また、労災が認められた場合には、そのケガを理由に労働者を解雇することができなくなりますので、労働者は安心して治療に専念することができます。 労災を受けるためには申請手続きが必要ですが、その詳細は労基署や弁護士などにご相談いただけます。
以前は、賃金や残業代の未払い、不当解雇などは訴訟を起こして、1年くらいかけて裁判所で解決することが多く、労働者にとっては負担が大きかったのですが、現在は労働審判という制度ができ、 3ヶ月程度で解決することが可能になりました。
労働審判は訴訟と異なり非公開の手続でなされ、時間的な負担軽減のほか、大げさにしたくない場合にも効果的です。 そのほかセクハラ・パワハラや配転、労災の問題など労働事件は実に多様です。人それぞれ方針に関して希望もあります。まずは弁護士など専門家にご相談いただき、個別の事件の中であなたの希望に合う道を一緒に模索していければと思います。
労働組合に対してはいろいろなイメージがあると思いますが、一人では会社に立ち向かえない労働者が団結して会社と同等に交渉し、活動するための組織として大きな意味があります。 会社内の組合、一人でも入れる会社外の組合、会社と友好的な組合、そうでない組合などその種類は多様で規模も様々です。仕事について悩みがあれば、何でも相談に乗ってくれますので、一度思い切ってご相談いただくのもよいかと思います。
以上は基本的事項が中心ですが、具体的な事実に即した解説は、直接当事務所の弁護士までお問い合わせください。